【レビュー】「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強く、やわらかくする「マインドフルネス」入門

最近、マインドフルネスという言葉を耳にするようになりました。ただ、何となく胡散臭い、あやしい、と感じてしまう方もいるかもしれません。本書の日本語版序文で、それは大きな誤解であるとしています。

理由として、マインドフルネスは禅から思想などを分離した科学的な研究によるメソッドがベースになっていることを説明しています。本書では、マインドフルネスの定義を『自分の体や頭や心のなか、さらに身の回りに起きていることに意識を完全に向けること。批判や判断の加わらない「気づき」』としています。本書は、タイトルにあるようにマインドフルネスの入門書で、マインドフルネスを知らない方でも理解しやすい内容です。

今に意識を集中することで何が変わるのか、マインドフルネスはなぜ大事なのかを解説し、マインドフルネスを日常で実践する事例を53紹介しています。

生きていれば、どうしようもない不安や不満を感じることは数多くあります。怒りの感情がこみ上げてきたり、否定してしまいたくなる気持ちが出てくることも少なくありません。マインドフルネスは、そのような否定的な感情、いわばマイナスの感情の表面ではなく、その本質に迫り、自分の現状に気づくことにより、より人生を豊かにする手段であるとも言えます。

内容としては、やはり自己啓発的なものであり、先入観を持ってしまうかもしれません。しかし、マインドフルネスの基本的な考え方は、禅にルーツを持つだけあって、仏教的な世界観を反映したものであると感じます。

仏教は精神的な苦しみを取り除く哲学的な世界観でありながら、現実の事象から論理的にその世界観を作り上げています。そのため、科学との相性もよいのでしょう。日本では、仏教は馴染み深い宗教であり、多くの日本人にとって、感覚的にも受け入れやすい考え方だと思います。

本書は、他のマインドフルネスの書籍と異なり、実践しやすい事例が取り上げられています。ネガティブな感情にも目を向けており、マインドフルネスを理解するにはよい一冊でしょう。

ジャン・チョーズン・ベイズ (著), 石川善樹 (監修), 高橋由紀子 (翻訳)
日本実業出版社 (2016/7/28)、出典:出版社HP

日本語版序文

「マインドフルネス」という言葉を聞いて、多少なりとも「アヤしい」と思った人はいるだろうか? 医 学の研究者の1人として即答するが、それは大きな誤解である。
マインドフルネスは、マサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバット・ジンが開発した、禅から思想などの宗教色を分離した「マインドフルネス低減法」という科学的な研究によるメソッドがベースになっている。いわば、テクニックに近い。

私はハーバード大学に留学した際、病院で実際にがん患者にマインドフルネスを実践している現場を目にしたことがある。これは、がんの痛み自体は取り除くことはできないが、痛みに対する自分の向き合い方は変えられる、という考え方によるものだ。痛みに注意を集中させると、やっぱり痛い。しかし、痛みに対する自分の反応は変えられるというトレーニングだった。

現代は、とくにインターネットの影響から、情報があふれ返っていて刺激が多い。そのようななか、マインドフルネスは医療分野はもちろん、「今していることに注意を向ける」という科学的なメンタルトレーニ ングとして、ビジネス分野でも広がっている。最近ではGoogle、インテルなどの先端企業でも社員研修に 採用している。また、テニスのジョコビッチ選手などトップアスリートも取り入れている。それは「一流」と言われる人ほど、成果を出すためにはメンタルの差が大きいとわかっているからだ。

多くの人は、いかに自分が脳にだまされて生きているかということに気づいていない。無意識のうちに脳にさせられている考えや行動はあまりにも多い。言ってみれば、「脳の奴隷」となっているとも言えよう。

脳は、疲れた、イラつく、つらいなどのネガティブな感情に支配されやすい。それは、脳のなかにある「扁桃体」という不安や恐怖などのネガティブな感情を認識する部分が影響している。マインドフルネス は、そのような扁桃体の支配から抜け出して、目の前に起こっていることに気づこうというものでもあり、「気づきのトレーニング」とも言われる。

車は、車検に出して定期的に修理してメンテナンスをする。また、体は、食事や睡眠、休息をとるなどしてメンテナンスをする。車や体と同様に、「心」だってメンテナンスが必要である。マインドフルネスは、いわば「心のメンテナンス」である。

私自身、Google社の「サーチ・インサイド・ユアセルフ」というマインドフルネスの研修に参加したの をはじめマインドフルネスを日常に取り入れるようになって、自らの変化を感じている。それまで、私には不満を探すために、毎朝目を覚ましたり1日を過ごしたりしているようなところがあった。研究者として目覚ましい成果をあげることができずに悩み、「今日も何もできなかった……」というのが口ぐせになっていて、日々が非常に苦しいものだった。

だが、マインドフルネスに取り組むようになって、注意の向け方が変わり、これまで無意識にやりすごしていたことに気づくようになった。自分にとって「何が満足」で「何をしたら1日を満足して終えられるか」に意識が向き、それがわかると自分の満足の置き方が変わった。「今日、何をできたか」ということが喜びになった。

これまでのマインドフルネス関連の本と、この本はとくに次の点で異なる。これまでの本は、「坐禅をしなさい」「日記を書こう」など「これをやりなさい、あれをやろう」と、読者が今までにやったこともないことに時間をとらせようとしていた。でも、やったこともないことに時間をかけるのは、忙しいから無理となりがちだ。一方、この本は「『身の周りの音』に耳を澄ます」(WEEK9)や「『お腹の空き具合』を意識する」(WEEK49)など、これまでに「やっていること」をもとに、視点を変えて注意を向けるので実践しやすい。

よく「感謝をしよう」などと、いいことばかりのポジティブ一辺倒の行動をすすめる本も少なくない。だが、この本は「『イヤだ」という気持ちを意識する」(WEEK35)など、ネガティブな感情にも注意を向ける点もバランスがいい。実際に「100歳まで生きるような人は、若いときに苦労をした人が多い。必ずしも苦労が少ない人生がいいわけではない」という研究結果もある。よいか悪いか関係なく、喜怒哀楽のそれぞれに役割があるのだ。
そして、この本で紹介している53エクササイズ (=WEEK)は即効性のあるものが多い。「「つなぎ言葉」を意識する」(WEEK3)など、無意識でしてしまうことも取り上げている。さらに、細かな指示はとくになく、「ここに注意を向けたらどうでしょう。すると、さまざまな発見がありますよ」というふうに、著者が実際に試して厳選したものをまとめ、かつ押しつけがましくないスタンスもいい。

ただ、1つ注意してほしいのは、うかつに一気に読み進めると、わからなくなる可能性があることだ。 「日めくりカレンダー」ならぬ、「週めくりカレンダー」的に、1つひとつのエクササイズをじっくりと味わいながら、それこそ意識を集中して実践してみてほしい。
最後に、「なぜ、マインドフルネスを実践するといいのか」を私なりに解釈すれば、「今」を充実させるためだ。「今」という瞬間の連続が人生である。「今この瞬間に、自分はどこに注意を向けるのか」というのが人生をつくっている。
2016年7月 予防医学研究者 石川善樹

ジャン・チョーズン・ベイズ (著), 石川善樹 (監修), 高橋由紀子 (翻訳)
日本実業出版社 (2016/7/28)、出典:出版社HP

はじめに

「マインドフルネスを実践してみたいのですが、何しろ忙しくて、時間がとれそうもないんです……」
そう言う人はたくさんいます。ただでさえ、仕事や家事、子どもの世話などに追われて忙しいのに、マインドフルネスに取り組むとなると、その過密スケジュールのなかにさらに予定を詰め込まなければならないと思っているのです。

じつは、マインドフルネスを生活のなかに取り入れることは、言ってみれば「点つなぎゲーム」か「数字ぬり絵パズル」みたいなものです。
子どもの頃にやった「数字ぬり絵パズル」を覚えていますか? 線で細かく分けられた部分に数字が書かれていて、それぞれの数字が指定する色を塗っていくと、絵が出来上がるパズルです。数の指定通りに塗っていくと、しだいにすてきな絵が姿を現してきます。

マインドフルネスの実践は、これに似ています。生活のなかのどこか小さな部分にまず働きかけるだけでいいのです。
たとえば、電話がかかってきたときに、すぐに受話器に飛びつかずに、まずゆっくり3回深呼吸して、それから電話に出ます。これを習慣になるまで1週間ほど続けてみましょう。

それが習慣になったら、次は別のマインドフルネスの練習、たとえば、食べるときに意識して味わいなが ら食べるようにします(詳しくは後述しますが、「WEEK」はどこから始めてもかまわないことから、本文では「練習」と表記しています)。

こうして、「今」に心をとめる習慣が生活に1つ取り込めたら、別の練習を取り入れます。すると、1日のうちに「今このとき」に心を置いて、それを味わう瞬間がだんだん増えていきます。そして、やがて「目覚め」という至福の経験が、パズルの絵のように姿を現してきます。

本書で紹介する練習は、生活のなかのいろいろな部分を取り上げ、みなさんがそれらをマインドフルネスの暖かな色で、1つずつ塗っていけるようになっています。
私は瞑想の指導者で、オレゴン州にある禅宗の寺院に住んでいます。小児科の医者でもあり、妻でも、母親でも、祖母でもあります。ですから、日々の暮らしがどれほど大変で煩雑なものかもよく承知しています。

そういう忙しい毎日のなかにあっても、心を見失わず幸せで安らかでいられるように、これらの練習法を考えました。暮らしの小さな瞬間を味わって楽しみたいと思う人に、これから紹介する53の練習をおすすめします。

1か月もかかるメディテーション研修に参加したり、寺院に住み込んだりしなくても、心の平安と生活のバランスを取り戻すことは誰にもできます。みなさんが手にしているこの本のなかに、その方法が紹介されています。
毎日少しずつマインドフルネスの練習をしてみませんか?今みなさんが生きているその人生に、満足と充実を見出すことができるのですから。

ジャン・チョーズン・ベイズ (著), 石川善樹 (監修), 高橋由紀子 (翻訳)
日本実業出版社 (2016/7/28)、出典:出版社HP

「今、ここ」に意識を集中する練習 目次

日本語版序文
はじめに
PART I マインドフルネスによって、もたらされるもの
マインドフルネスとは何か?なぜ大事なのか?
マインドフルネスがもたらす効能
マインドフルネスについての誤解
本書の使い方
PARTⅡ マインドフルネスを日常で実践する18の練習
WEEK1 「利き手でないほうの手」を使う
WEEK2 痕跡を残さないように暮らす
WEEK3 「つなぎ言葉」に注意する
WEEK4 自分の手に感謝する
WEEK5 食べるときは「食べること」に専念する
WEEK6 心からの「ほめ言葉」を伝える
WEEK7 姿勢を意識する
WEEK8 1日の終わりを「感謝」で締めくくる
WEEK9 「身の周りの音」に耳を澄ます
WEEK10 電話が鳴ったら深呼吸する

WEEK11 優しい手で触れる
WEEK12 「待つ時間」を活かして使う
WEEK13 メディアを断つ
WEEK14 「優しいまなざし」を向ける
WEEK15 人知れず「善行」を行なう
WEEK16 3回、深呼吸する
WEEK17 「別の空間」に入ることを意識する
WEEK18 木々に目をとめる
WEEK19 手を休める
WEEK20 否定しない

WEEK21 「青いもの」に目をとめる
WEEK22 「足の裏」を意識する
WEEK23 「何もない空間」を意識する
WEEK24 ひと口ずつ味わって食べる
WEEK25 「限りない欲望」を意識する
WEEK26 苦悩を意識する
WEEK27 「バカ歩き」をしてみる
WEEK28 水に意識を向ける
WEEK29 高いところを見上げる
WEEK30 「自分のもの」という心を意識する

WEEK31 「匂い」や「香り」を意識する
WEEK32 「今夜死んでしまうかもしれない」と思って接する
WEEK33 「暑さ」と「寒さ」の感覚を意識する
WEEK34「足もとの地球」を意識する
WEEK35 「イヤだ」という気持ちを意識する
WEEK36 「何か見落としていないか」と考える
WEEK37 風を感じる
WEEK38 すべてを吸収するように人の話を聴く
WEEK39 「感謝すること」を見つける

WEEK40 「老い」の表れに目を向ける
WEEK41 時間に遅れない
WEEK42 「先延ばしにする心」を意識する
WEEK43舌を意識する
WEEK44 「いらだつ心」を意識する
WEEK45 不安を意識する
WEEK46 マインドフルに運転する
WEEK47 「食べるもの」に思いをはせる
WEEK48: 光を意識する
WEEK49 「お腹の空き具合」を意識する
WEEK50 「体の重心」を意識する
WEEK51 「愛と慈悲の瞑想」をする
WEEK52ほほ笑む
WEEK53 場所やモノを今よりよくして去る
「座る瞑想」を練習してみよう
謝辞
「マインドフルネス」に関連した参考図書
表紙デザイン杉山健太郎
イラスト橋本豊

ジャン・チョーズン・ベイズ (著), 石川善樹 (監修), 高橋由紀子 (翻訳)
日本実業出版社 (2016/7/28)、出典:出版社HP